★ 自由利用マークとCreative Commonsと ★

　予告通り、自由利用マークとCreative Commonsのお話です。

　さて、真紀奈が2月11日に問題点としてだした記事を見て、ある方達が文化庁へ取材に行って来てくださいました。その結果の記事が、インターネットマガジン2003年4月号の「動画・音楽・ネットでの利用に制限がかかる『自由』の意味とは　著作物の利用促進になるか？文化庁が『自由利用』マークを発表」です。
　真紀奈はこの取材後、すぐにその結果を教えていただきまして、それでいったん納得して、No! 自由利用マークキャンペーンをとりやめたわけです。ただし、取材内容についてはインターネットマガジン発行までださないということが条件だったので、今日まで公開していませんでした。

　実は、インターネットマガジンの記事で疑問点についてはほとんど明らかにされています（笑）
　今日の記事は真紀奈が問題点としたこととその回答、そしてちょうど同じ号で白田秀彰先生の記事も出ていますから、 自由利用マークとCreative Commonsとの関係について書くことにします。


▼ 自由利用マークへの疑問点とそれに対する文化庁の方の答え

　Ｑ＆Ａ形式にした方がわかりやすいかな、ということでこうしています。実際の記事の方はこういう風に書かれてはいません（笑）取材はこうだったかもしれませんけどね。

Ｑ．	どうして自由利用マークというものを作ったのですか？
Ａ．	インターネットの発達によって、プロ・アマ問わずに著作物を発表できるようになりましたけど、どんな著作物にも著作権が発生します。そして、著作物の利用のための許諾をとるのには時間も手間もかかるので、利用をあきらめる人がいる一方、著作物を自由に利用していいよ、是非とも利用して欲しい、という人もいます。 そういう、著作物を自由に利用していいよ、という人が自分の意志を表示するための手段として、今回のマークを定めることにしました。
Ｑ．	今回、音楽と映像が対象から外されているのはなぜですか？
Ａ．	当初は対象に含めるつもりだったし、音楽業界の審議会メンバーからも「別に構わない。自分たちは使わないが」というように言われていました。 けれど、実際に音楽業界の話を聞くと利用者は著作権をきちんと理解していない場合が多く、誤解による被害が大きい可能性があることが予想されたため、今回は対象外とすることにしています。 これは、例えばプロの曲をMIDI化した時に、MIDI化を行った人間がその曲を自分のものと思いこんで、マークをつけてしまうというようなことが、実際に起こりかねないからです。
Ｑ．	コピーOKマークでインターネットが除外されている理由は何ですか？
Ａ．	紙媒体などと違って、インターネットではコピーの広がり方が違います。そのためなりすまし等が行われた場合に被害が大きくなることにつながります。 また、このマークは事実上撤回が不可能なので、誤解によってマークをつけた場合にはとりかえしがつかないことにもなります。そのため、ある程度定着してから、ということにしました。
Ｑ．	コピーOKマークで実費徴収が不許可になっている理由は何ですか？
Ａ．	実費の概念については一般の人にはわかりづらいということがあります。人件費を含めてもいいかどうか、などですね。 あいまいさをなくすため、わかりやすく完全無料のみという形にしました。
Ｑ．	障害者OKマークでは営利での利用が不可となっていますが、著作権法37条で点字化などは営利で行うことが可能と解釈されています。この関係はどうなるのですか？ また、コピーOKマークではデッドコピーのみが可能となっていますが、引用等は許されるのでしょうか？
Ａ．	もちろん、現在の著作権法で定められている著作権の制限規定が優先します。 自由利用マークをはることによって利用の範囲が狭まると言うことはありません。 ※補足 これについては、個々のマークの説明の最後に「＊自由利用マークの有無に関わらず、著作者の了解なしに著作物を利用できる例外が著作権法に定められています（文化庁のホームページの「著作権制度の概要」を参照）」という文章をつけていることで説明しているつもりだったのだそうです……。
Ｑ．	学校教育OKマークでは学校のホームページに掲載することを許可していますが、これには学生のホームページも含まれているのですか？
Ａ．	学校の管理下にある学生のサイトについては、それが趣味の範囲であっても学校の活動ではないという判断は下せないので、「学校教育OK」の著作物を利用してもよいと考えています。

　こんな感じですね。つまりは、今回は最初のステップと言うことで、誤解などによる被害が起きないように範囲を狭めて始めることにしたということです。意図的に変に読めるようにしたのではない、ということなのだとか。
　著作権の制限を狭く解釈できるようにしていたつもりはなく、下に書いてあった注意書きだけですませていたというのには唖然としましたけどね（苦笑）
　なぜかというと、文化庁の著作権ページにある「著作権制度の概要」の「著作物を自由に使える場合」を見てみればわかるのですが、あれを見て普通に理解できるかどうかが謎だからです。著作権についてきちんと理解していない人が自分の著作物を自由に利用してもらおうと思ってこのマークを使うというのに（著作権について理解している人だったら自分でライセンスを決められます）、こういう法律系の文章を読むようにといっても読まないと思うんですよね。そうしたら、誤解が広がるだけじゃないでしょうか……。例えを利用するとかして、もっとわかるようにして欲しいです。
　特に障害者利用マークの場合、点字化については営利でも可能（ただし障害者に対しての販売のみ）というのが著作権法の解釈なのですが、文化庁の説明にはその点が書いてありません。まあ、基本的に解釈でのみ可能とされている部分なので書かなくても当然なのかもしれませんが、自由利用マークとあわせて考えると、できないと思いこむのではないでしょうか……。

　このあたりの点については記事を書いた人もクレームを入れたそうで、「きちんと対処を行う」という返事をもらったそうなのですが、未だに変更されている気配はないですね……。
　このページについても文化庁の方に送ってもらうつもりです。「Ｑ＆Ａページ」などでよいので対応してもらいたいです。この間、真紀奈のページに文化庁から誰かが来ているのを確認しましたので、わざわざ連絡しなくても見ている可能性はありますけど（笑）

　こんなに制限する必要があるのかな、とも思ったのですが、取材してきた方にも聞いたのですが、実際、著作権というものを誤解している人というのはかなりいるらしいです。MIDI化して自分の著作物だと思いこむ、ということなどがあるとは真紀奈は思いませんでした（汗） 確かにMIDIはその人のものかもしれませんが、そのMIDIに使われている曲は著作者のもので、著作者に許諾を受ける必要があるくらいは考えないと……。
　自由利用マークのせいで著作権侵害が余計に広がってしまうということを防ぎたいというのがあったのだろうとのことで、実情を聞くと、納得してしまいました……。今回のマークは民間が出すものじゃなくて、官庁が出すものですからね。できる限りおかしなことがおきないようにと考えるのも当然なのかもしれません。



▼ 自由利用マークとCreative Commonsと

　真紀奈がなぜこの記事を見て「No! 自由利用マークキャンペーン」を撤回したかということですが、これは、現在の所、自由利用マークも Creative Commonsもおなじようなことをやろうとしているということがわかったためです。
　どちらのマークも、著作物の自由利用を行えるようにしようという意味では変わりません。自由利用マークは、人は誤解を起こしやすく、なりすましなどの被害を起こすものだということを前提として始めているのに対し、 Creative Commons（以下CC）は使用者が著作権の知識を持ち、自分の宣言に責任を持つことを前提にしているということが、その違いにつながっているのでしょう。
　あと、CCは機械で読めるようにしている点が、新たな可能性をはらんでいます。これについては白田秀彰先生の「創作物の『自由』な流通を作る新しい政府の出現か？」（PDFで読めます。しかもCCライセンス・笑）を読んでみてください。このCCの中でこそ、これからの文化は発展していくことになるのだという野心的な試みといえるのかもしれません。
　逆に、自由利用マークというのはあくまでも現在の著作権ビジネスがあって、その補助としてアマチュアの著作物の流通くらい自由で、という意識が強いように思われます。

　これは、既存の著作権意識に凝り固まっている官庁が作ったマークと、「新シカゴ学派」を提唱しているレッシグ教授達の作ったマークの、その制作者達の思想の違いにもよるのでしょうね。真紀奈が今回紹介している２つの記事の『自由』の意味の差、なのかもしれません。

　そういう意味で、やっていることは同じようでも、この２つのマークの目指す先は「自由利用マーク」の発展次第では、全く別のものになる可能性も否定できません。現在の所、自由利用マークにはこのマークの発展によって生まれ来る世界というものに対する認識が、多分かけていますから。
　それに輸入権問題に見るように著作権が経産省の管轄に入ったら同じベクトルを向くことはないでしょうね。

　だから、真紀奈は、もし文化庁のマークが「自由利用の制限」の方向に向かっていると判断されるときが来たら、また「No! 自由利用マークキャンペーン」を行うということになるかもしれません。
　ついでに、自由利用マークの紹介文等が一向に変更されなかったら、その時はさっさと変更しろキャンペーンとか、もっと自由に利用できるマークを作れキャンペーンとかやってみてもいいかも（笑）

　実はもっと素晴らしい方法があります。
　それは、「文化庁にCreative Commonsを採用してもらおう」キャンペーンを行うということです。現在CCは国際化を行っています。そしてその第一弾が日本になる予定で、今月中にも発表されるだろうと言われているんです。だから、そのCCを文化庁に採用してもらって、日本でも法律的に有効にしてもらおう、と。（現状では法律的に有効になるか疑問なところがあります）
　これは、「自由利用マークの記事」にもでていることですが、文化庁がこのようなことを言っていることによります。

　CCが日本で認知を受け、広がっていくようであれば、文化庁としてはそれはそれでよく、そうならば別に自分たちがきちんとやる必要はないと考えているわけです。ということは、自由利用マークが認知されるよりも先にCC日本語版を広げるというのは一つの手ということです。
　同じようなことをやっていても、インターネットと連動し、新たな著作物市場を構築できるのは、自由利用マークではなくて、 Creative Commonsですから、このキャンペーンには意味があると思っています。

　ただし、CCは著作権についてわかっている人が利用するということを前提にしています。だから、このキャンペーンを行うのならば、CCがどのような意味を持ち、どういう効果が発生するかについて利用者にわかりやすく説明する文書を作って、それも同時に広めないといけません。ただのCCの解説ではなく、著作権そのものの解説も必要になりますから、かなり大変なことになりそうです。
　でも、やりがいはありそうですよね。もし、このようなキャンペーンをやるのであれば、真紀奈の著作権法講座の文章を改訂して、それに対して提供する、ということくらいは行いたいと思っています。



参考：
インターネットマガジン / 著作物の利用促進になるか？文化庁が『自由利用』マークを発表
白田秀彰 / 創作物の『自由』な流通を作る新しい政府の出現か？
openp2p / 「自由利用マーク」についての考察
akubi / 自由規制マーク

この文書の著作権については、こちらをご覧ください。

2003年3月01日　公開開始


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